2011-01-01から1年間の記事一覧

○ 鴉の羽軸をオリーブ油に漬したもの

中央公園の枯葉をしゃくしゃく鳴らしながらなにも考えない。朝と昼と夕方と。みどりのかかった黒の鴉は鈍い艶のある羽をきれいにたたんでこちらを見ている。宝物をみつけたような気分になってぼんやりと弁当を奪われ広げた羽を見あげた。「ともぐい」褪せた…

○ もう明日

どうしてあのとき離れたんだってそればっかりが心に浮かぶ。死んでいく父ともし代われてもそうはしなかった。それは父を愛しているからだ。わたしの死に目になんかあわせられるわけがない、それなら父が死んだほうが父にとって良いはずだとそう疑いもなく思…

○ 夜明けの晩

失うことを恐れるのはもうたくさん。去っていくことと自ら去ることの意味の違いを納得させて。ここにいて、ここにはもういないひとはだあれ?

○ ひとり

命は明日へ延びていくようにみえて、過去のなかでしか生きていないわたしたちは、だからひとり。どうしようもなくひとり。

○ 金木犀の氷漬け

死ぬまであとどれくらい。

○ 蜂蜜に蛙がおよぐ

喘ぎながらひりひりと熱く湿った皮膚を自由にする。琥珀色の粒々がぺたぺたと額を濡らすままにみあげると星雲が配列された真暗闇がひろがっていた。気に入りの星雲よりもその闇に気をとられたので目をかたく閉じてから窓という窓を開けて風が吹くのをまった…

○ 鱗茎

彼岸花の根を擂り潰して足のうらにぬりたくっていたよね。お蔭さまで歩くのに難儀しなくなったんだとか。土手に突き刺さっているその花は、新鮮な血痕みたいにわざとらしく朱く群れたり散ったりしていたのに今日にはもう褪せて、空はあまりに澄み青いので、…

○ どこへでも

疲弊が母を眠らせた隙に昏睡して動けない父の手をとって自分の頭にのせてみた。のせて二回撫でてみた。もう短い息継ぎのような呼吸だけが、居心地良いでしょうと言わんばかりにしているホスピスのあたたかそうな色のくだらない壁に弱々しく響いている。だん…

○ 絶対音楽

孵らない雨間に声を燃やす日はひかりの漏れる窓掛けに似てくる/青がよく映るしましましたタイに手をかけちらり彼方を見遣る仕草/あした/あした/失ってしまう前の予感に橙の果汁を模した/ボヘミア起源の二拍子の活発な舞踏および舞曲は捕らえ/つき砕いて固め…

○ 、海、海、海

、なんて唄ううちに手拍子が聞こえてきてその次の瞬間しんとして終わってしまえばいい命。枯葉を玩んでいればよかった子どもの頃に戻りたいと言ったあのひとはいま仏壇を売っている。お骨ペットの前に置いた砂糖菓子をかじってイチニィサンシっていちばん言…

○ いなくなる

もう二度と失えないということ。かなしみに背筋が凍る。つつじのように赤くきれいな腸の切りくち。顎でする息。湿った蝋みたいな皮膚。鼻についた腸液のにおい。目の前で砕かれた顎の骨。立派なお骨でなんて言うな。もう父でも人でも骨ですらないそのかすか…