あめふりの夜

時間がただここにあるような気がして、したくもないことをしてみる。「ねえ、みて」爪を切りそろえてプールのような水色のマニキュアをぬり終えたわたしに、ゆっくりと向きなおり、「死にかけの妖精みたい」と言う。北風と太陽の北風になったつもりで乱暴に息を吹きかけながら、爪を庇ってリモコンをつまむ。テレビをつけて、消して、睫毛が湿って重いから目を閉じた。マンションの灯りが緑色にみえるのはどうして。「ねえ、どうして」水音は完璧な色であたりを満たしていて、もうどんな音も加えられない。わたしは黙った。からだの水と雨は寄り添って、流れて、やがて細い川になる。空が光って、鳴る。大きな手が頭を撫で、思いだしたように頬をつねった。わたしはとろりとしていつまでも乾かない爪の上に溺れるあるあめふりの夜。