ふみにじる

冬になり、春が来て、夏にとける。たかい日は影を焼きつけてまっすぐ去っていったし、秋は長く、ただ長いだけで世界を蹂躙したんだ。失われた機能を再構築することに専念しているうちにわたしは死ぬ。また来た冬はいくつかの冬の総集編で、最後の冬になるし春。ああ冷たく激しい春。生まれたての憎悪がまじりけないさまでたやすくすべてを裏返すよ。優良な劣等感でも救っていろ軽率ね。うねる前髪からのぞく黒い目は見ない。見ないものは存在しないからわたしはいない。はなからすべてを手にいれたような抱きかたで正しく踏み躙って孤独と自尊心。いち、にい、さんって言ってそれから。なにを祈っているか教えてあげようか。それから指先を噛む。濡れた歯形が縫い目みたいに並んでひかる。消えて。薄い闇はいつも均一に降ってきては視界を平らにする。ここは、ここはどこ。後部座席からは100メートル先の自動販売機が見えていて、そこにいる人たちの話し声が耳もとで聞こえている。薄い闇はいつも等速でやってきては心を轢き殺す。そこは日没直後の博多埠頭。光は射さないけれどほんとうの闇は永遠に来ないし薄い闇が晴れることはない。そう信じるには十分過ぎるほどの証拠が揃っている。1秒生きたら1秒苦しんでおまけに絶望のもう1秒。鼠算式にふえてゆく不透明で幸福じみた偽の言葉。だれの言葉。黙りこんでいればかつて無言に踏み躙られた小さな泣き顔は消えるの。それならいいよ。裏返った時間は拵えものの愛みたいにつまさきに引っ掛かってあなたの魂はサンダルウッドの匂いがして