冷たい夜の警固公園

冷たい夜の警固公園では透明すぎないいまだけがスケートリンクのように凍り、狭くなった視界のすべてをあの人のくちびるや目やあたたかい手のひらが占めた。あの人はそこにいて、そしてまだここにいるけれど、その欲の安らかさや、体に食い込んだ劣等感を、抱いてほしいままにわたしかもしれない誰かを抱く。地に足のついた欲望の真っ赤に血のかようさまを食い入るように見詰めたわたしは、ただの悦びを知った。細胞の一つひとつを見張られている。それは振動。春に芽吹く枝のように細かく震え、満ちている。満ちて、満ちてあふれる小さな芽は悦び、悦びのための、悦び、とても現実。表現されていないリアルさに舌を這わせて目を合わせて完ぺきにはりめぐらされた興奮が、こぼれおちる、掬う、その優しくて意地悪な声が好き。ひどく、ふたり。抱きしめた体は抱きしめただけきちんとそこにあって、生きていて、すこしの濁りを目印にして混ざりあう。近くて、遠くて、ああわたしは、あなたを知っていたよといまだけの世界を集めて記憶を引きのばした。どこへゆこう。どこへも。