○ もう明日

どうしてあのとき離れたんだってそればっかりが心に浮かぶ。死んでいく父ともし代われてもそうはしなかった。それは父を愛しているからだ。わたしの死に目になんかあわせられるわけがない、それなら父が死んだほうが父にとって良いはずだとそう疑いもなく思うように子どもを育てた父は、どう考えたって世界一の父親だ。楽しかったことを思いだそうとするのに死に顔ばかりみえる。ふっくらした顔で笑っていてほしいのに、こけた頬をひき攣らせた笑い顔しかでてこない。父のにおいはとうに忘れたのに露出した腸管からでる腸液のにおいが鼻についてとれない。いまでも夜中に目を覚ますとそのにおいがたしかにして、父がもういないことを思い知る。骨と皮だけになっていく父をみて痩せるのが怖くなり食べる気がしなくても食べる。国立医療センターの2階にはエクセルシオールがあってそこでよくカフェラテとサンドイッチを買って病室にあがった。父はわたしがたくさん食べているところを見るのが好きだったしそれくらいしかもう、わたしにできることはなかった。孫を抱かせたかったとかそんな無いもの強請りはしないけれど、どうしてあのとき離れたんだって、どうして。どうして。どうして。どうして。