○ 鱗茎

彼岸花の根を擂り潰して足のうらにぬりたくっていたよね。お蔭さまで歩くのに難儀しなくなったんだとか。土手に突き刺さっているその花は、新鮮な血痕みたいにわざとらしく朱く群れたり散ったりしていたのに今日にはもう褪せて、空はあまりに澄み青いので、油断すると世界が終わりそうだった。たしかに終わりそうだった。そうならなかったのに理由はない。歩いたことのない道を歩く。あのひとは隣にいて、まだ、いない。手を離さないでなんてどうして言えるだろう。ちぎれた雲がまたみえなくなる。なにも、みえなくなる。