おめでとうと

おめでとう、もう忘れてまたはじめましてして、わたしたち、生まれた途端生きろっていわれてだから生きてきて、それってなんなの、わたしは、おめでとうもいえない、いままでのこと指で窓に書いた、外からみると逆さのこんな結末の始まり、結末だってさあ殴れ、きれいな、海をみようって、抉れた、体をまるごととりかえて、舐めてたっていれていってそれで、それで終わりだった望んだ未来はいつまで待ってもきっと1秒分もこない、好きよ、いとしくて、死ねない、ちゃんと殺さないから、1秒ごとに過去が殺しにかかる、なかに棄ててなにってそこのそれ、準備はいいかはいどうぞ、贈ろうか、わたしはここに生きて、感情があるなんかある、1秒を1億に分けてもそのぜんぶに悲しみがしみて、いるとかいないとかどうでもいいああくだらない、おめでとう、終わり、わたしの特権にしようか、終わりってなんでも、一度きりらしいしなんかとうといよねばかばかしい

オルガン

この皮膚の下の、だれのものでもない血と肉とはあまりにファンタジー的。形式を重んじるようでいて見縊っている半端な設定をぶっ壊してやるよ。鳴る心臓は知る。こおる背にやまない生命が迫りくる。生かしておいて死はさめて、ひとりぼっちだ。鳴る心臓は聴く。意味は脈絡のためにあったんだ。それを愛してやまないのはだあれ。意味の意味の意味の果てをみせて、そうしてやっと体は生る。未熟のままに、大層な幸福を雨に祈った。どうしたってやまない雨は降るのだし、わたしは祈るんだ。幸福のなにかを知らずただ眠るように祈る。絶え間なくあなたの連続性ラ音が聴こえ、この肺は、潰れる。

春の突風

それは東南東の高気圧から西南西の低気圧へ向かって吹く。静々と整列した空気を掻きまぜ弛ませ木立のにおいを立たせる。桜の木肌には密やかに上気した頬の色が滲みはじめていて、わたしはシリコン人形みたいなやりかたでそれをみつめるしかない。息はしない。また来た狂った季節。拒んでも、望んでも、叶っても、とおりすぎていくよとおりすぎていくんだよ!雲は破れてのぞく空は空。群青でも、白銀でも、橙でも、目はみつめる空。(よろこびしかつたわらないとおもうこころにぞうしょくするかなしみ)のろまな言葉に苛立ちにらむ風。髪を掻きわけスカートを翻す風。布きれほどの手応えもなく体はいつもの左端から散っていって、しまって、舞って。

ばらばら

星がかたっぱしから落ちて山を燃やしているみたいなあれは山の上ホテル。黒い道ふりかえって、澱みをみつめ、またふりかえる。まえうしろくるくるしても闇はいつも背になる手に負えない。だからもっとえぐいああああまい旋律で踏みにじって、ああ。うたいたいな、うたいたい、人がうまれる前からそこにあったみたいな顔したうたを。さあ、切ないほどにかわいいあなたのあなたのあなた。かわいくて死んでしまう。わたしわたしの体をみるとあなたを感じます。なんにもないななんにもない。とうといとうといということにした遠い体のその、その意図!

代謝

変えることはいつの世界も結果オーライの粗さで受容、つき従う思想は水のように流れて然るべきよと正反対にみえる主義主張もいつかのおなじ人間によるものなのだった。わたしたちはいつもなにかを変えたいだけなんだって、よくするわるくなるってなにが。代謝が快楽になりえる仕組みの体。とりあえずソフトクリームみたいなルーズソックスをはいた。絶滅したすべての言語を復活させるくらいのいきおいで、はいた!

雪の日、二日目

夜明け前の薄暗さのまま一日が終わった。こんなにうるさい雪の日は初めて。外を歩く半分の人はすべって転んできいきいさけび、つもるはずの雪の半分はごうごうと強すぎる風に飛ばされた。大きな雪だるまをまっしろにつくるにはたりないけれど、雪はつもった。つもったまま強い風におしかためられ、街灯を反射して空を照らしている。絶滅したある種の雪だるまを蘇らせようとしたのだけれど、いまのこの手では及ばない。せめてはとおもい、枝とにんじんを雪のこんもりしたところへ突き立てておいた。明日になったら雪だるまになっているかも。

雪の日

今日は氷点下の気温が一日中つづき、雪の降らない時間はなかった。路面はかたく薄い膜に覆われどこか安心しているようすで、そのうえを風に追われすべる雪。音もなく、というよりもわたしに音はよりつかず、なにもかもがどこか遠く、意識の縁にみえ隠れする記憶の入りぐちだけをぼんやり眺めていた。風に吹かれるばかりで、雪はつもる気配がない。つもったら、大きな雪だるまをつくろう。そう思いながら歩いていると車に轢かれた。慌てて車から降りてきたのは小さなおばあさんで、なんだかとても申し訳ない気持ちになったわたしは、平気です、とだけ言って立ち上がり、また歩きだした。傘は折れたから捨てた。雪。雪がつもっている。街路樹の根元、土の部分に、すこし。氷を削ったような水っぽい雪はつやつやとして、でもしっかり白く、ずっと昔からそこにあるかのように厳か。みてみて、雪。頭のなかでその言葉を投げかけた相手は、あのひとだった。なにかひどく傷ついた気分になって、しゃがみこむと膝から血がでていた。傷ついていたのは膝だったのだなあと思いながら、やはりなにもかもが遠く、わたしはもう、わたしを守ることはできないかもしれない。聴こえない声を聴く耳。ある言葉だけを待つ胸。それらを束ねて収容した夜はいつまでも更けずに、そこにある。みあげると舞う雪の間に空はみえず、ただ灰色ばかりが目を塞いで、四角に閉じていく。ずらりと整列した記憶の入りぐちだけがぼんやりと光って浮かびあがる。睫毛に雪がつもる。息は雪のように白い。いつも雪は世界のすみからつもって。雪だるま。雪だるまは、絶滅したのかもしれない。こんな雪の日に。