あらゆるものの境界が整い、つやつや引きしまってみえる。素直に青みがかった明るい陽射し。知らない道をひとりで歩く。よくわからない力に引っ張られるように芽吹いている。草や木や鳥や人間。威圧的に咲く散りはじめる寸前の桜の匂い。そのなかを歩く。くたびれたビルから滲む冷たい空気と、陽に温められた街路樹の吐いた空気が混ざり、風になった。睫毛の上を滑る乾いた風。生まれたばかりの、あるいは死ぬ間際の一息みたいに。世界が終わるならこんな日。終わる。救われたような気持ちになって、歩く。海みたいな緑色のフェンスを越えて。その先にあるものがなんなのかなんて考えない。偽の記憶を焼き増したような、未来と呼ぶ存在しない日々を終わらせる。