春に吹く風

風は強くぬるく、梅の花は咲いている。ウィスキーと苺、煙草。燻したバニラみたいに苦く甘いにおいをさせて卑猥な声を耳に押しつけるだれか。スクリーンを照らすMidnight in Parisは眼の表面をすべり落ちるだけなのに、字幕がいやに煩い。解けかけの氷のようにつやつやしたカウンターに肘をつく。なにもかもが白々しい。息をつくだけで生きているのなら、息をとめて死ねればいい。アルコールと煙に呑まれた意識はひろがって散らばって、でもあの人までは届かない。もうほかのだれにも触れないのに、肌はとけてながれて、いつもの行きどまりで途方にくれている。ひとりで外に出てぬるい空気を吸い込んだ。とりあえず一日は、終わろうとしている。