薄く青い蜜みたいな

水が恋しい。波紋の影が海底の白い砂に落ちて揺れる、薄く青い蜜みたいな水。遠くにみえる波うち際が眩しくて目を細める。ちょうど満たされた体は浮かび、前髪はもう乾いていて、塩で固まっている。目を閉じる。鼓動が波うつ赤いひかりになって全身をめぐる。誰もいないのにあの人の眠そうなかわいい声がして、かなしくもないのに泣きたくなる。あと一言だけ。息をとめた。波に攫われる。沈んで、浮き上がらない。目を開けて、息をして、体を触った。あの人を知っている体はもう死んだのに、知っているふりをするこの体が忌ま忌ましい。濡れた指で辿る記憶の鮮やかさに肌が苛立つ。明るくて広くてあたたかくて楽しくてうれしくて満たされていてすこしかなしい。このまま沈んで、深い、海の底で。