トランスペアレント

朝はなくて/夜はなくて/群青と橙に休む空/青い針葉凍る空気が/足もとで鳴る雪と繋がり/ひかりに躍る/躍る足をそのままに/そこは、だれもいないのにだれもがいて/重ねあわされ/すみずみまでゆきわたった/振動にのまれる/赤い指先からのびた毛細血管は/つやつやと透け、空にはためいて/珊瑚礁みたいだっておもった瞬間/ビロードのようにひかりを吸収し/自由になって/ガラスの粉みたいに、煌めき/遠くに運ばれていく/陽にとけた声/枯れ草みたいな甘いにおいを/皮膚に埋めこまれたいくつもの言葉を/想うでもなくただ撫でて/このからだ/からだのいちばん深いところに/不透明なひと塊りの/わたしにみつからないように隠し/重ねた、重ねた膜の/散乱していた粒子が満ちて/透明になった/長いあいだ/滲むたびに重ねた/内にあったはずのそれは/いつかわたしをくるんで/棄てていた/熟れた果実みたいな悲しみも/舌先にとける歓びも/だれのものでもなくなり/頬を滑って/真っ平らな空に映った/そしてあのとき/くちびるが押しひらいた、くちびる/知らないのにもう知っているひかりが/やわらかに烈しく辿り/しめした/舌は舌だった/息は息だったんだ/そう/結露/する窓をながめていたあの日/声はいつだって届いている/あの人を失いたくないと/消えてしまいそうなひかりに/願ってしまった/朝はなくて/夜はなくて/群青と橙に休む空が/あるだけ