咲く花の

桜がすべての春をこぼしている。あのときあのひとのとなりを歩いたその道に影を落とした。満ちたりた淡い赤に混ざる空の青と漏れる光。きらきらして、それはもうほんとうにきらきらとしていて風は冷たく繋いだ手からこぼれそうなものこぼれずにそこにあっただけで希望を失うほどうつくしくすべてを去らせるほど命を惑わせた。最後の春が来たとつぶやくくちびるは青く霞んでもうとおく旋律の要求に従いわずかにおよぐ。ゆめみたいにあてもない醜悪なやりとりと言い訳がひとごとのように目の前でくりかえされている。閉め切られた窓を叩くものが手でも銃弾でも花弁でもうつろうあのひとにはおなじだろう。だけどできるなら。いつか開かれるかもしれない窓のそばにはみえる愛を残していきたい。どうかやすらかに生きてと乞い願うわたしは命を浪費するだけの役立たずだ弱虫。ゆるされないだれにも。