冬の蜂

目がさめると夕方の匂いがしたから庭にでた。割れそうな頭は一瞬だけ遠ざかってここにある。冬の蜂が地面を這って、もうどこにもいけない速度で自分の命を追い越していくところだった。冬になれば終わるようなものを羨んですこし泣く。ふと、あのひとの感触や声の色や目やくちびるの端がほんのすこしぼんやりしているのに気がつく。いそいで必死に目を開けてみると、そこにいるのは幸せそうなべつのわたしで、自分の記憶とは思えなかった。空は誰かの希望みたいな色をして、気味が悪いほど明るく輝いて闇にのまれていく。蜂になったつもりでのろのろと歩いてみたけれど、なにも終わる気配はない。終わらないなら慰めないといけない気がして、だけどやり方がわからなかったから、左手で頭を撫でた。