世界の外縁

名前も忘れていたような人とかんたんにすれ違って言葉だけを交わす。言いたいことは見つからなくて、いままで生きていてくれてうれしい、そう思うだけ。子どもの頃に遊んでいた赤土の色を思い出してその次に感触を思い描いて、あの時から地続きのこの瞬間のことを思った。なにかひとつでもはっきりとした間違いを見つけられたなら、やり直したいと思えるのだろうか。サイドウィンドウに映る手を見て、ここにいるのが、あなたではなくこのわたしだと、認識できるようになるのだろうか。空を覆っている巨大なビルがもうひとつの夕景をつくっている。記憶を投影したオレンジの光と黒いシルエット。失くなった、失くなっていくのに、生きるほど上手に失えなくなっていく。外縁は不定形で、だれも同じには見ていないこの世界のどこにもいられる気がしない。トマトは本当に赤いと思っているのかって聞いただれかを黙らせて。どうやったって、生きていかないといけないのだから。