生まれる

ほんのすこし体を放ったらかしているうちに、また空気はゆるんで、流れて、交じって、細胞が隅々まで入れ替わっていた。足を出せば青い草を踏み、見上げればめいっぱい彩度をあげた新芽に当たる。鳥はかわるがわる囀り、虫をついばみ、巣をつくる。窓の外の人の気配。暢気な話し声。ますます境界が曖昧になる、ゆるゆる拡がっていく意識を堰き止めるために、苦いものをすこし食べる。極まった感情は、もうすぐ姿をあらわす。それはきっと、見たことのない形で、だけど懐かしくて、終わりの予感を孕んでいるのに終わらない。生まれる前から知っていたような既視感を覚えて吐き気がした。