● 夜通し鳴く、金魚とベランダ

夜にも鳴く鳥が家の周りを巣で包囲していて一日のほとんどの時間をそこでかわるがわるさえずって過ごしている。静かにしているのは朝の4時15分から30分間だけ。朝になったら金魚を買いに行こうか。魚には瞼がないので情の移りようがない。丸い金魚鉢にきれいに洗った地味な砂利と透き通る水草を入れて朱色の金魚を2匹飼う。頭にゼリーみたいなのがついていないシンプルだけどしっかり丸いやつを。あの人は黒い出目金が好きだって言っていた。昔飼っていた金魚は、買ってきた水草に病気がついてきて、それで死んだ。腫れて、膨らんで、浮いていた。死んだ金魚はすぐに、夜明け前のベランダから落とした。ふかふかの夏草の上に。だれに会う気もしない。心細くなって、5分間我慢してから、電話した。あの人の声を聞いた途端に死にたくなって、なにも言わずに切った。ベランダから落とした金魚のその落ちていくスピード。手を放した瞬間の世界の小さな終わり。二度と戻らない。もう、朝だ。