● 夢をみた

「どうして死んだの。」「どうしてだろうね。」そして続けてあの人は言った。「死んでも死ななくても、でも、同じことでしょう?」わたしはこれからどこか遠くへ行くから、ここにはもう戻れない。もう二度と会えないんだろうか。「いまの僕が見えているのなら、僕はどこへでもすぐに行けるよ。」「そんな幽霊みたいなこと、言わないで。」そんな不確かな存在だとしたら。瞬きのあとにはもう見えなくなっているんじゃないか。いま離れたら”もう二度と会えない”んじゃないか。「…もう会えなくてもいいから、確かにここにずっと存在しているって言って。」「ほら、死んでも死ななくても同じことでしょう。」「僕はいままでずっとここにいたし、これからもここにいる。」「”これから”っていう未来なんて、夢みたいなものだよ。」「こればかりは死んだからわかったことだけど。」「でも人はいつも未来を見ているんだ。」「君だって、初めて会ったような僕のなかに、もう未来を見ている。」「死んでいるのにね。」「だから死んでも死ななくても、同じことでしょう?」「眠れば夢をみられる。」「夢をみないで朝がくることもある。」「それと同じことだよ。」